今から思えば、澤さんは当時からデジタル時代を先取りしたような撮り方でした。
いや、「デジタル」と構図が直接関係あるわけではありませんが。
10年ほど前、料理写真といえば大きな蛇腹のカメラで撮るのが当たり前の時代、澤さんが撮影に持って来たのが中判のハッセルブラッドです。
大判の蛇腹のにくらべると、フィルム面積はざっと4分の1。ホームページ用であまり解像度が必要ではなかったとはいえ、型破りな感じでした。そのかわり、手持ちで構図を少しずつ変えながらどんどん撮れる。
そして、もうひとつ大胆だなあと思ったのは、最初から、お皿が画面からはみ出すように撮影することでした。それに、蛇腹のないカメラですから、全部にピントが合うということがない。どこかにピントをきっちり合わせたら、あとはあえてぼかす。
今はこういう撮り方、当たり前です。どの雑誌のカメラマンでも、印刷屋さんのカメラマンでもやっています。でも、当時は「料理専門のカメラマンというのはこういう撮り方をするものか」と、けっこう新鮮でした。
さて、時代は流れて今やデジタル全盛時代。
ちょっと前までは、「きれいな写真」はやはりフィルムに軍配が上がっていましたが、もうデジタルでもまったく遜色ないとか。いや、デジタルの方が上という人もあります。あるエンジニアの本によれば、もはやレンズのクオリティもフィルム時代にくらべてはるかによくなっているのだとか。
少なくとも、インターネットではデジタルかフィルムかはまったく関係ないし、印刷物でも同様だそうです。まあ、10年前でも、印刷物に使う場合はフィルムをデジタルで読み取って処理していたのですから、結果は同じことですが。
そしてデジタルで決定的に変わったことは、「その場で結果が見られること」。
これは決定的です。ある意味で、今まで「現像しなければわからな」かった「プロの腕前」が、その場でわかる。一発勝負ではなくなったわけです。
たいていの場合、カメラマンはその場で確認するときには、カメラについた液晶画面で確認、修正してゆきますが、澤スタジオはパソコンを持ち込んでやります。
ふつうパソコンを持ち込んでも、どんどん撮影して、メモリーがいっぱいになったらパソコンに読み込む、ということが多いみたいですが、澤スタジオではリアルタイムで撮影画像をパソコンに送ります。
こうすれば大きな画面で画像が確認できるので、照明の不具合や色合い、ピントの確認など、ほとんど完全です。
そしてこれも、はじめはコードをつないでやっていたのですが、澤さんはすぐにワイヤレスに切り替えました。「くいだおれ」での撮影でも試しつつやってました。はじめはワイアレスの具合が悪かったり、パソコンのアプリケーションの具合が悪かったり、途中で撮影作業が止まることもしばしばでしたが、いつの間にか、ワイヤレスで写真データを飛ばすのがあたりまえになりましたね。
そして、一枚撮るごとにこうやって確認して、露出や証明、レフ板の位置などを修正しながら進めてゆきます。フィルム時代は構図や露出が決まったら、「では、本番行きます」だったのですが、デジタル時代はこうやって確認して決まれば、「OK」。あっけないものです。
それで、どんどん撮影も進んでゆきます。最近は、構図などのスタイルも決まって来たせいもありますが、4時間程度で大小合わせて20点は軽く撮れます。小さいものが多ければ、もっと早い。この倍は軽いですね。
ただし、昔と違って今はカメラマンがパソコンのソフトを使って画像の修正をすることも多いです。色合いを調整したり、汚れを取り除いたり。そういうレタッチ作業もカメラマンの仕事に入ったりするので、パソコンもカメラマンの「道具」になってきました。
で、こうした撮影作業をしながら、ホームページのレイアウトの打合せも同時進行で進めてゆきます。何せ、撮影したカットが目で見えるわけですから話も早いのです。
パソコンのモニターで見た画像を見ながらレイアウトを決めて、ここにはデータ番号何番の写真、ここは何番、と、つぎつぎに決めてゆきます。
データも、急ぐものはレタッチ抜きでその場でCDに焼いてデザイナーさんに渡せる。
だから、今は「1点いくら」ではなく、「1時間いくら」とか「1日いくら」の契約です。そして1点あたりの撮影料もかなり安くなりました。もっとも、澤さんにはかなりサービスしてもらってますが。
思えば、すごいスピード感の変化です。
フィルム時代は、撮影して現像に出して、翌日戻って来たものをルーペで覗いて選んでデザイナーに渡して、紙焼き(プリント)にしてレイアウトに貼付けて(そういえば昔は紙焼きの上にトレーシングペーパーをかぶせてトリミングの指定なんてやってましたね)、なんて、撮影からレイアウトまで1週間近くかかったものですが、今や一瞬。せいぜい2日です。
「くいだおれ」の場合、ホームページのうち毎月更新する箇所をだいたい決めています。だから、2日あれば撮影からアップデートまでできてしまう。この4月は撮影の段取りがうまくつかなくてぎりぎりになったので、月末に撮影して、翌朝までにアップデートという無理をしてもらうことになりましたが、そういうことすらできる時代になったということは、ちょっと前には考えられないことでした。
また、モニター画面を見ながらどんどん修正してゆけるわけですから、写真のクオリティもどんどん上がっているということかもしれません。これはカメラマンにとってみれば安全でもあり厳しくもあります。
一発勝負でないのだから「どうしようもない失敗」はなくなりました。でも、どんどん修正できるということは、できるだけ修正しなくてはいけない。クライアントはどんどん注文つけます。昔みたいに現像したらおしまい、「撮り直しは大変だ」とか「撮り直してもこれより良くなるかどうかはわからない」なんてことはありません。
だから、デジタル時代のカメラマンさんは、いかにクライアントの要求を正しく理解して、それをいかに手早く実現できるか、が要求されるということでしょうか。
ところで、ちょっと前の書き込みに、「玉葱料理の写真は澤さんでしょうか」というご質問がありました。池本くん喜びます。実は、あれは池本くんです。澤さんはものによっては一から十まで池本くんに撮影させることがあります。そして、最後におかしいところを修正してゆく。そうやって、力をつける。
これもデジタル時代だからできることかもしれません。ともあれ、あの玉葱は澤さん抜きでOKが出たものです。
さて、昨日の「前編」に、「くいだおれ」ホームページ開設の目的に「kuidaore」の使用権の問題があるということを書きましたが、結果、「くいだおれ」のホームページアドレスは「Cui-daore」となっています。
これは、アメリカに長かった澤さんのアドバイスです。
英語には「ku」という綴りはほとんどないし、「kuidaore」とずらずらやってしまうと英米人にはとても読みにくい。
この際、もっと美味しそうに、「料理」すなわち「キュイジーヌ cuisine」を連想させる綴りにしてはどうだろうか。ということで今の Cui-daoreという綴りが採用されたのでした。そしてアドレスには使えませんが、ロゴには最後も「オア」でなくちゃんと「オレ」と呼んでもらえるように、最後の「e」の上にフランス語のアクセント記号をつけています。
2008年05月12日
料理写真 後編 デジタル時代
posted by くいだおれ太郎 at 23:06| Comment(0)
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