2008年04月15日

すき焼き その1

サンデー・ジャポンからの話題のつづきは、すき焼きです。
すき焼き1.jpg

「大阪名物くいだおれ」のすき焼きは、開店の年から続いている名物料理です。

その「名物」の理由のひとつは、これが「上方風すき焼き」であること。
すなわち、割り下を使うのではなくて、醤油と砂糖と「かんざ」つまり燗冷ましの日本酒で焼き上げること。

そして、理由の二つめは、創業者の山田六郎がひじょうに奇抜な宣伝をしてこれを売り出したこと。
このくだり、ちょっと長いのですが、「大阪名物くいだおれ」の公式社史『ばかたれ、しっかりせ』(講談社)から引用しましょう。

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ある日、
山田六郎氏はどこやらから牛を一頭、
生きているやつをつれてきた。
それからねぎをたくさんと、
おおきな南部鉄の平なべを仕入れてきた。

店員を十人ばかりあつめて、
ちんどん屋の扮装をさせた。
牛に鍋とねぎを背負わせて、
ひとりに牛を牽かせて、
あとは「すきやき」と書いた幟(のぼり)をかつがせて、
牛のあとについてあるかせた。

行列がえびす橋にさしかかったころに、
巡査がとんでやってきた。
こんなところで牛を牽いてはいかん。
車馬通行止メと書いてあるのがわからんか。

なにごとや、と人があつまりはじめたころに、
山田六郎氏がえびす顔をぶらさげてあらわれた。
おたくの従業員と牛をなんとかしてほしい、
と言われて、
山田六郎氏は標識をしげしげとながめた。
そして、言った。
くるまと馬はいかんとは書いてあるが、
牛がいかんとは書いておらん。
そう言って、
山田六郎氏は牛を牽いて、
すたすたと歩きはじめた。

巡査はおいかけてきた。
牛がいかんとは書いていないが、
車馬通行止メというのは
牛もいかんということなのだ、
と言ってやっぱり止めようとした。

そんなことをいわれても、
牛がいかんと、
はっきり書いておるわけではないのだから。
だいいち、牛はええとおもって、
もう牛を連れて来てしもうたのだから。
と言って、山田六郎氏はまた歩きはじめた。

押し問答をしているうちに、
えびす橋のうえは黒山の人だかりになった。
いかんものはいかんのだ。
もっと交通標識を研究したまえ、
と巡査が言うと、
研究せねばわからんような標識のほうが、
まちがっているのや、
と、山田六郎氏は言った。

橋のうえに笑い声と喝采がおこった。

牛がいかんならいかんと、
はっきりそう書いてくれればええのに、
と言いながら、しぶしぶ、
山田六郎氏は牛をひっこめることにした。

くいだおれの親父がな、
牛に鍋背負わせてあるいとってな、
巡査と何やおもろい言いあいしよったで、
と、評判になって、その秋と冬、
くいだおれのすき焼きは大当たりをした。

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ひとくだり、引用が長くなってしまいました。
このエピソードで「大阪名物くいだおれ」のすき焼きは評判になったということですが、そのほかにも和牛へのこだわりや、「上方風」の焼き方のこだわりなど、創業当時からの「大阪名物くいだおれ」のこだわりがそのまま残っているメニューです。

お肉の話や、焼き方のこだわりについては、また次回。
posted by くいだおれ太郎 at 22:48| Comment(1) | 日記